これまで「売り上げ」と「仕入れ」の仕訳を見てきました。
今回は「経費」の仕訳を見ていきましょう。
新たに学ぶ勘定科目
- 「消耗品費」
- 「広告宣伝費」
- 「通信費」
- 「旅費交通費」
- 「車両費」
- 「支払手数料」
- 「租税公課」
経費とは?
経費は、事業を行うのに必要な出費のことです。「必要経費」と言ったりします。
そういった意味では仕入れと同じようなものですが、実際には仕入れと経費は別物です。
仕入れは、「売るモノそのもの」や「売るモノの基になるもの(原料)」を購入した場合のことを言います。
例えばパン屋さんの場合、パン屋さんはパンを売るのが仕事ですが、そのパンは小麦粉からできています。ですので、小麦粉を購入した場合は仕入れになります。
一方、レシピを記録するためのノート代はどうでしょう?ノートはあった方が良いですが、ノートでパンができるわけではありません。
こういった直接売るモノには関係しないものの、事業を行う上で必要なものが「経費」となります。
ただ、経費と仕入れは「事業上必要な出費」という点では同じなので、仕訳も全く同じになります。
「仕入」は借方(左側)に書きましたが、これは経費も同じです。そして「仕入」の仕訳と同様、反対の貸方(右側)にその経費の支払い手段を書きます。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
/ | 経費の内容 |
経費の支払い手段 |
摘要: |
経費は内容によって勘定科目が異なる
経費と仕入れは仕訳の仕方自体は同じなんですが、仕入れはどんなものを仕入れても「仕入」という1つの勘定科目で済みました。
ただし、経費の場合は「経費」という単一の勘定科目ではなく、その経費の内容によって勘定科目が異なります。
ここでは主なものを見ていきましょう。
「消耗品費(しょうもうひんひ)」
「消耗品費」で処理できる内容はかなり広範囲です。
例えば・・・
- ペンやノート、はさみなどの事務用品
- トイレットペーパーやティッシュペーパー、ハンドソープなど日用品
- 電話機や空気清浄機、エアコンなどの電化製品
- パソコンやその周辺機器などなど
これらを購入した場合は購入した品名で書くのではなく、「消耗品費」という名前で仕訳し、具体的な品名は「摘要」欄に書きます。
※もちろんですが、事業上を行う上で必要なものに限られていますので、上記のものであっても個人用途で購入したものはダメです
「消耗品」という名前から、基本的にはすぐになくなってしまうもの全般を指しますが、電化製品やパソコンも含みますので注意してください。
ただし、消耗品費で処理できるものは10万円未満(青色申告者なら30万未満)か、使用可能期限が1年未満のものではないといけません。
この条件に当てはまらないものは別の勘定科目を使って表します。これについてはまた今後見ていきます。
「広告宣伝費(こうこくせんでんひ)」
開業して間もない頃だとお客さんが少ないので、チラシを作ったり、新聞やネットなどへ広告を出したりする必要が出てくるかもしれません。
また、事業用のホームページを作ってもらわないといけないということもあるでしょう。
こういった、事業の宣伝に関わるものの出費は「広告宣伝費」という名前で仕訳します。
「通信費(つうしんひ)」
電話料金やネットのプロバイダ料、郵便等の送料など通信関連は「通信費」という名前で仕訳します。
ちなみに、電話機やスマホ本体は消耗品費になりますので注意が必要です。
「旅費交通費(りょひこうつうひ)」
得意先への挨拶や打ち合わせ、売上金の回収等で取引先に出向く場合があるでしょう。
そういう場合の交通費や滞在費は「旅費交通費」という経費になります。
「車両費(しゃりょうひ)」
車で営業することもあろうかと思います。
その際にかかるガソリン代やコインパーキングの料金、車検代など車関係のものは「車両費」になります。
「支払手数料(しはらいてすうりょう)」
銀行の振込手数料や引出手数料、電化製品などの延長保証料等は「支払手数料」という勘定科目を使います。
※延長保証は他に「修繕費(しゅうぜんひ)」という勘定科目で処理しても構いません
基本的に経費関係の勘定科目は「〇〇費」という名前になることが多いですが、こちらは 「〇〇費」 とならない経費ですので注意が必要です。
「租税公課(そぜいこうか)」
こちらも「〇〇費」とならない経費です。
「租税公課」は、事業関連で支払った税金(事業税や、事業用車の自動車税、店舗や事務所の固定資産税など)や、領収書で収入印紙を使った場合などに使う勘定科目です。
あくまで事業関連の税金に限られますので、個人的に支払う所得税や住民税などは経費にできません。
ここでは主なものを挙げてみました。
まだまだ経費の勘定科目はたくさんありますので、どのような勘定科目になるのか一つ一つチェックしなければなりません。
経費の仕訳をしてみよう
では実際の取引例を使って経費の仕訳を見ていきましょう。
経費の仕訳例:その1
取引例
【6/30に事務所で使うプリンタを家電量販店で25000円で現金で購入した】
こちらも仕訳をしやすくするために、「原因」と「結果」に分けてみましょう。
取引例
【6/30に事務所で使うプリンタを家電量販店で25000円で現金で購入した】
- (原因:何をして) ⇒プリンタを購入して
- (結果:どうなった) ⇒代金(25000円)を現金で支払った
では仕訳をしていきましょう。
まずは「プリンタ」が経費の中の何の勘定科目になるのかを考えます。こちらはパソコンの周辺機器ですので「消耗品費」になります。
経費の仕訳は、借方に経費の内容(「消耗品費」)、貸方(右側)に支払い手段(「現金」)です。
※形としては仕入れ時と同じ
ということで次のようになります。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
6 / 30 | 消耗品費 25000円 ( 原因 ) |
現 金 25000円 ( 結果 ) |
摘要:プリンタの購入 |
経費の仕訳例:その2
今度は別の例で見ていきましょう。
取引例
【9/12に出張のためホテルの滞在費として15000円を現金で支払った】
こちらも仕訳をしやすくするために、「原因」と「結果」に分けてみましょう。
取引例
【9/12に出張のためホテルの滞在費として15000円を現金で支払った】
- (原因:何をして) ⇒出張でホテルに滞在して
- (結果:どうなった) ⇒現金で代金(15000円)を支払った
こちらもまずは「ホテルの滞在費」が経費の中の何の勘定科目になるのかを考えます。こちらは「旅費交通費」になります。
その他は先ほどと同様になりますので次のようになります。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
6 / 30 | 旅費交通費 15000円 ( 原因 ) |
現 金 15000円 ( 結果 ) |
摘要:〇〇ホテルの滞在費 |
経費の仕訳例:その3
では今度は少し複雑な取引を見てみましょう。
取引例
【11/12に原料Aを70000円で仕入れ、支払いは銀行振込で行った。その際振込手数料として770円かかった。】
取引としては複雑になりますが、こちらも「原因」と「結果」に分けて考えると仕訳がしやすくなります。
取引例
【11/12に原料Aを70000円で仕入れ、支払いは銀行振込で行った。その際振込手数料として770円かかった。】
- (原因:何をして) ⇒原料Aを仕入れて
- (結果:どうなった) ⇒代金を銀行振込で支払った(原料Aの70000円と手数料770円の合計「70770円」)
まずは原因から仕訳しましょう。
この場合は単純に「仕入」の仕訳をすれば良いだけです。「仕入」は経費と同様借方(左側)に書きます。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
11 / 12 | 仕入 70000円 ( 原因 ) |
|
摘要: |
では結果の方を仕訳しましょう。
この場合、元々の原料代と手数料で合計「70770円」を銀行振込で支払っています。ですので、まずは「普通預金(預金種目が当座なら「当座預金」)」で仕訳します。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
11 / 12 | 仕入 70000円 ( 原因 ) |
普通預金 70700円 ( 結果 ) |
摘要: |
しかしこれだと借方と貸方では金額が合いません。つまり手数料を支払ったという事実(経費の計上)がこの仕訳には入っていません。
ですので、経費を計上しておきましょう。
手数料の勘定科目は「支払手数料」になります。また、経費は仕入と同じ借方に入りますので、最終的には次のようになります。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
11 / 12 | 仕入 70000円 支払手数料770円 |
普通預金 70700円 |
摘要:原料Aの仕入れ |
これで借方と貸方の合計額が「70700円」で合いました。
ちなみに、このように勘定科目が複数行になるものを「複合仕訳(ふくごうしわけ)」と言います。
複合仕訳の場合は結構金額が借方と貸方で違ってしまうことが多いので、合計金額が合うように細かくチェックする必要があります。
問題で力を付けよう!
では今回も問題を作ってみました。復習をかねて仕訳の練習をしてみてください。
問題1
取引例
【10/29に事業用のホームページを作成してもらい、その際の代金55000円は銀行振込で支払い、また振込手数料として880円かかった。】
下記に仕訳をしてみてください。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
/ | ||
摘要: |
今回も、この取引を「原因」と「結果」の2つの側面に一旦分けます。
原因(何をして) ⇒「 」
結果(どうなった) ⇒「 」
事業用としてホームページを作成してもらったらそれは立派な経費と言えます。
この場合、ホームページ作成が経費の中の何という勘定科目になるかを考えます。またそれは借方と貸方どちらに書くのでしょう?
そして代金は何で支払って、その場合何という勘定科目を使ったのでしょう? また、この場合振込手数料も支払っていますので、そのことも忘れずに記録しておきましょう。
ということで、答えは次のようになります。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
10 / 29 | 広告宣伝費 55000円 支払手数料 880円 |
普通預金 55880円 |
摘要:ホームページ作成代 |
ホームページの作成費用55000円と、振込手数料880円支払っていますので、合計「55880円」支払ったことになります。間違って「55000円」としないように気を付けておきましょう。
問題2
では今度は下記の仕訳からどういう取引になったかを考えてみましょう。
日付 | 借 方 | 貸 方 |
4 / 5 | 租税公課 2000円 | 現 金 2000円 |
摘要:収入印紙代 |
まずは経費の内容をみると、「租税公課」と書かれています。
摘要欄には「収入印紙代」と書かれているので、収入印紙を購入した取引だとわかります。
ということで、答えは次のようになります。
回答例
【4/5に収入印紙を2000円分購入した。その際の代金は現金で支払った。】
まとめ
ではまとめです。
- 経費は事業上必要な出費という点では仕入れと同じなので、仕訳も仕入れと同じ
- 「経費」という勘定科目はなく、経費の内容に応じた勘定科目を用いる
- 経費の内容を借方(左側)に、残りの貸方(右側)にはその支払い手段を書く!
「売上」「仕入」「経費」は商売の基本と言ってもよいので、ぜひこれらの仕訳を身に付けるようにしてください!
では次回は返品や値引きをした場合の仕訳について見ていきましょう。